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2023年11月5日(日)探索!槇山千坊

  • 南明寺の平安仏などが元あった場所と伝わる「槇山千坊」を探索しました。

  • (2023年11月30日(木) 午後11時43分35秒 更新)
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礎石らしき石

観音山の山腹にある平坦地に礎石らしき石が並んでいました。

「槇山千坊」とは?

「槇山千坊」は南明寺に伝わる『大和阪原由来記』に登場する坂原にあったとされる大寺院です。『大和坂原由来記』には天正十三(1585)年の島左近による奥書があります。島左近は戦国武将として知られ、この奥書が本物であれば、天正十三(1585)年は長年仕えた筒井家と決別した頃に当たります。

『大和坂原由来記』には、欽明天皇三年(541)に天竺から渡来した恵智法師と恵僧法師が、南都元興寺創立の後、敏達四年になって坂原で槇山千坊を開いて千体仏を造立したとか、中国から渡来した司馬達等が坂原で仏教を広めたとか、室堂というのは槇山千坊の一坊で司馬達等がこもった寺院だとか、村上天皇(926-967)の時代には信西入道(藤原通憲)が室堂に入って槇山千坊を中興したとか、明らかに史実とは異なる荒唐無稽とも言える内容が書かれています(参考:『大和阪原由来記』、大和國史會「大和志」、5卷11號通卷50號、1938年11月1日)。

このうち司馬達等は、継体天皇十六年(522)に奈良縣高市郡明日香村の坂田原に草堂を結び本尊を安置したと伝えられ(扶桑略記第三)、この草堂が後に坂田寺という古代の尼寺となったされます。そのため、『大和坂原由来記』は、「槇山千坊」を「坂田原」に作られた「坂田寺」に付会することを意図していると考えられています。

とは言え、たとえいくらか誇張された呼び名だとしても「槇山千坊」に該当する寺院群そのものは、実際に阪原町の北部に存在した可能性があります。この文書が作られた当時にはまだ、多少なりとも槇山千坊を思わせる寺院群、あるいはその痕跡が現地に残っていたのでなければ、この文書の意図は達成できないように思われるからです。

なお南明寺の地元地域では、南明寺の本堂は槇山千坊から移建されたと伝えられてきたといいます。また『大和志』(享保20年(1735年))にも「存坂原村正堂一宇安置三大佛上梁文曰寶龜二年建今呼槇山千坊坊廢」とあります。しかし昭和13年(1938)の本堂修理工事報告書よれば、修理に伴う調査によっても『大和志』が指摘するような上梁文は見つからず、現存する本堂以前に建物があった痕跡も認められなかったようで、同報告書は様式年代からしても、本堂が鎌倉中期に現在地に新しく建てられたものだと結論づけています。

ただ、南明寺本堂の本尊である薬師如来坐像、その左右に安置された阿弥陀如来坐像・釈迦如来坐像はいずれも平安時代のもので、中央の薬師如来坐像が他の二像よりもやや小さく、これら三尊は一具のものではないと考えられています。それでいて南明寺の本堂はこの三尊を安置するのにちょうどいい間取りとなっています。あるいは南明寺本堂は、槇山千坊にあたるいくつかの寺院にあった古像を移してくるために建てられた、とも考えられます。

では、「槇山千坊」はどこにあったのでしょう。昭和13年(1938)年の『南明寺国宝建造物本堂修理工事報告書』では、「槇山千坊は当寺(南明寺)を北に一里の地点にある槇山(あるいは巻山)と称せられる山林がその寺址であるといわれている」としています。また奈良市史建築編でも「当寺の北約四キロメートルの地点にある槇山(または巻山)と呼ばれる山林」としていますが、これは「一里」を「4キロメートル」に換算しただけで、昭和13年(1938)の本堂修理工事報告書の記述をそのまま引いたものと考えられます。ちなみに南明寺から北へ直線で4キロ行くと、笠置町に入ってしまいます。

一方、奈良市史社寺編では、槇山千坊に該当する地域がかなり広く、「クワンノン山」「マキ山」「アミダボ」「向ヒ坊」などの小字名が残っていることを伝えていますが、それがどこなのかについては触れていません。そこで法務局で旧土地台帳を閲覧し、古い小字の地番を確認した上で、奈良市東部出張所で明治時代に作成された坂原村実測全図と坂原村の字限図(あざきりず)を閲覧して、槇山千坊の痕跡を残す小字の場所を調べました。

南明寺国宝建造物本堂修理事務所 編『南明寺国宝建造物本堂修理工事報告書』,南明寺国宝建造物本堂修理事務所,昭13

南明寺国宝建造物本堂修理事務所 編『南明寺国宝建造物本堂修理工事報告書』,南明寺国宝建造物本堂修理事務所,昭13(国会図書館デジタルコレクション

槇山千坊に由来しそうな小字とその地番

向ヒ坊
3410-3412,3348-3364,3394
ダケノ坊
3478
奥ノ坊
3545,3546
アミダボ
3222-3231
辨天
3310-3312,3316,3317
小仙城
3067-3072,2849-2856
巻辻
3136-3140
不動・フトヲ・フドヲ
2801-2843,2846,2847
槇山・マキ山
2857-2860,2869
觀音山・観音山・クワンノン山
2861-2868,2870-2890,2892-2904,2911-2928

国土地理院の地理院タイルに小字名を追記したもの

ダケノ坊、向ヒ坊、奥ノ坊、アミダボ

小字ダケノ坊は足痛地蔵の向かい側、長尾神社の馬場跡の道の北側の一角です。現在は携帯電話のアンテナが立っています。小字向ヒ坊は、足痛地蔵の裏にある石塔墓の東側にある民家や水田のかなり広い範囲をいうようです。現地に寺院跡だとわかる遺物は見当たりませんでした。

小字奥ノ坊は、足痛地蔵の西にある谷を北へ少し行ったところの西側で、二軒のお墓の手前あたりをいうようです。谷沿いの道を北へ向かうと青谷橋があり、青谷橋の北側にある現在の道路より少し低い位置となってしまった岩に、室町時代ごろの磨崖仏があります。ここに磨崖仏があるということは、遅くとも室町時代ごろには、この場所で白砂川を渡ることができたのでしょう。

白砂川を渡って、対岸にある谷を北へ進み、少し右にカーブしたあたりに小さな谷があります。その谷が小字アミダボです。アミダボに分け入ってみたところ、かつては谷底で水田が営まれていたようで、奥の方まで沼地のようになっていました。また谷の入り口付近は笹が密生し地形が全くわからない状態でした。谷の奥からだけでなく、谷の入り口近くの山肌からも岩の隙間から水が染み出していました。この場所に寺院があったとすれば、飲み水には困らなかったはずです。

槇山、不動

現在、小字槇山にあたる一帯は全てゴルフ場となっています。小字不動にあたる谷については、一部がゴルフ場となっているものの、谷の奥の方は現在も放棄田や山林です。小字不動にあたる谷を歩いてみましたが、特に寺院跡らしき地形や遺物は見つかりませんでした。

槇山

奥のグリーンが小字「槇山」付近。その背後にある山の斜面は「観音山」ですが、右奥の山頂部は小字「観音山」に属しておらず、正面の山のこちら側の斜面と、右奥の谷を囲む山の斜面、右奥の谷の谷底のあたりが小字「観音山」です。「山」と言いながら山頂を含まないことから、この小字が山の名前ではなく、寺院の山号に由来している可能性を思わせます。

観音山にあった礎石らしき石の並び

観音山に属している南面する山の斜面に、階段状に平坦地が造成されている場所がありました。そのうち一番高いところにある平坦地には、礎石らしき石が四つ並んでいます。各石は約50cm四方で、石の中央付近の間隔が、左から182cm、242cm、182cmで、これは1間(6尺)、8尺、1間(6尺)にあたり、尺貫法と矛盾しない配置です。また、礎石の上にあった建物はほぼ正確に南面していたと考えられます。これらの特徴から、いつの時代のものかはわからないものの、これらの石が礎石であることには間違いがないように思われます。

礎石が並ぶ平坦地の右端辺りから、真北にある山頂へ向けて、人の頭ほどの石が帯状に連なっていました。石段が崩れたようにも見えることから、地質に詳しい人に見ていただいたところ、人工的なものか自然にできたものか断言はできないが、涸れた沢でも同じような石の並びが作られそうに思うとのことでした。

帯状の石の連なり

頂上に向かってまっすぐに石が連なっています。

GPSログと現地のメモから、縄張り図風に平坦地を図化しました。

観音山縄張り図-拡大

下の方の平坦地は棚田になっていたようです。一方ABCDFGのあたりは、大きな石が多数埋まっており、田畑とするには不向きに思えます。

礎石の間隔は下図の通りです。

礎石図

ゴルフ場の東側を巻いていく道は、奈良市道東部第120号線です。この道は奈良市と笠置町の境界あたりで行き止まりとなっていますが、ゴルフ場ができる前は、南笠置の観音坂十一面観音磨崖仏の前を通る山道に通じていたようです。観音山のあたりでグリーンを横断する箇所があり、ゴルフボールに注意する必要はあるものの、行き止まりとなるところまでは誰でも自由に通行可能です。

奈良市道東部第120号線の終端

奈良市道東部第120号線の終端。網が張ってあるところから先は奈良市道ではなくゴルフ場の構内道路です。

Map.

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