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2022年3月11日(金)「奈良坊目拙解」に見る古道

  • 「奈良坊目拙解」の般若坂と奈良坂の項に、中川越道に関連した興味深い記述があります。

  • (2022年3月12日(土) 午後3時32分1秒 更新)
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般若寺笠塔婆

現在は般若寺境内にある笠塔婆。

貞慶と重源がばったり会った般若寺笠塔婆

「奈良坊目拙解」は、享保二十年(1735)、村井無名園古道という当時の民俗学者・歴史学者のような人物(父親も「南都名所集」の著者の一人)が五年の歳月をかけ、奈良の各町を事細かに記した奈良の地誌です。村井無名園古道は、「南都年中行事」十二巻の著者でもあるそうです。

村井古道は、同書の中で般若寺の笠塔婆を実範の造立とする説を紹介しています。当時笠塔婆は般若寺南東の民家の間にあったそうで、村井古道は、これは般若野五三昧(火葬場)の惣門だと断りながら、中川寺へ続く道の本道を示す門だった可能性もあるというのです。

 笠卒都婆二基、般若寺南根東側の人家の間、路傍にある。
(中略)
 伝に云う、岩渕寺勤操作る所或いは云う、中河寺実範の造立であると。里俗は三間卒塔婆と称して高さ三間がある。
 今按ずるに、勤操の造立ではなく、実範律師営造とすべきか。是即ち往古般若野五三昧の惣門である。或いは云う、往年中川寺に至る本道であると。
 源平盛衰記に曰う、解脱上人貞慶は東大寺俊乗上人の許に起きようとしてここに来た。亦俊乗房重源は笠置貞慶の許に行こうとした。そして両上人平野三間卒塔婆辺で相遭って、互いに霊夢の趣を語って三拝偈仰したと。
(中略)
 当辺近世瀑布の干場となる。川上夷宮辺に経路あり。是は往昔中川寺に通った遺物である。
村井古道著・喜多野徳俊訳「奈良坊目拙解」1735/1977、397-398ページ

続けて紹介されている源平盛衰記巻二十五のエピソードも興味深いところです。ある日貞慶は重源が釈迦である夢を、重源は貞慶が観音である夢を見て、貞慶は笠置寺を出て東大寺に向かい、重源は東大寺を出て笠置寺へ向かったところ、笠塔婆のところで二人はばったり出会ったといいます。

実際には、この笠塔婆は南都復興のため、宋から渡来し、その重源の下で活躍した石工伊行末の息子、行吉が父の一周忌にあたって、父の追善供養などのために造立したもので、源平盛衰記にある重源と貞慶のエピソードはあり得ないのですが、江戸期には、この笠塔婆のある場所が、笠置と東大寺から歩いてきた両上人が出会い得る所と観念されていたとわかります。

源平盛衰記巻二十五にある該当する記述。

「瀑布の干場」とあ奈良晒の干し場のことでしょう。大和名所図会にも川上夷社近辺にあった「奈良の晒し場」が描かれています。

大和名所図会「奈良のさらし場」。

村井古道は、川上夷社から中川寺へ小径が残っているとも指摘します。この小径は現代の地理院地図にもその痕跡が残っています。ただ実際に現地にある道は、現存するとしても、荒れていてなんとなく道であったことがわかる程度のものと思います。

中川寺への道?

また、奈良坊目拙解には、現在の尾根筋を辿る(奈良豆比古神社から浄水場へ登る)道は、享保二十年(1735)時点から見て「近世」に付け替えられたものだと書かれています。今でも般若寺の北東から尾根筋に斜めに上がっていく道があり、中ノ川町や梅谷へはそちらの方が近道です。この道の方が古かったようです。

 当村の伊賀越道は往年今の出口ではなく、般若寺の北東側にあり、近世に今存在の路に改替したと。
村井古道著・喜多野徳俊訳「奈良坊目拙解」1735/1977、401ページ
近道の方が古かったようです。

近道の方が古かったようです。

国境にはさらし首があった?

国境食堂の北側にある山を「高座山(こうざやま)」というのだそうです。さらし首の地でもあったとことです。今でも「高座」という地名は残っています。奈良坊目拙解曰く、法然上人が説法をした山だから高座山というのだとか。木津側の安養寺に、法然上人の説法にまつわる念仏石があります

 高座山が大和山城の国境にある。石塔姿が岡の上にあって、是は両国の際界石である。建久年法然上人が南都東大寺へ下向の日、北の山上説法を修したので後の人が高座山と謂った。高座は説法師の縄床で俗に高座と云う。寛永年以来刑罰の徒を高座山路傍に晒し懸けたのである。
村井古道著・喜多野徳俊訳「奈良坊目拙解」1735/1977、405ページ
高座山の位置

高座山の位置。

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